失敗は、ただの右折
新しいことをはじめようと、本屋さんで指南書を探すと、「絶対失敗しない~」というタイトルの本を、多く目にします。多く目にするということは、この手のタイトルだと売れるということです。
なぜ、日本人は、失敗してはいけないと思っているのでしょうか。中には、失敗すると生きていけないとまで信じている人もいます。
失敗すると生きていけない。それは本当なのか考えてみます。
「日本の農民」
1603年に江戸時代がはじまってから、1945年の終戦までの342年間、わたしたちのほとんどは、農民でした。
農民は、年貢を納めなければいけません。
年貢とは、お米です。お米は、年1回しか収穫するチャンスはありませんから、種まきや田植えは、絶対に失敗できませんでした。
失敗すると、年貢も払えないし、自分たちの食べるものもなくなるんです。
その年に、ベストの種まきの日や、田植えの日というのは、その日1日しかありません。
今日がその日なのか、農民は、自然を必死に観察して考えます。同時に農民は、周りの人の様子を必死で伺います。そして、その日が来ると、村中で種を撒き、一斉に田植えをするのです。
342年間、みんなで、同じことをすることが、生きる唯一の道だったんですね。そして、それに失敗すると、生きていけない環境だったんです。
「アメリカのカウボーイ」
では、本当に失敗すると、生きていけないのでしょうか。わたしたちが、農民として生きていた342年間に、国を建て、世界一の国となっていくアメリカ人が、何をしていたか見てみます。
1607年に、イギリス人がアメリカ東部のバージニアに入植します。バージニアは、ニューヨークの下にあります。
入植者は増え続け、後から来た人は、西へ西へ移動し始めます。カウボーイの時代です。
カウボーイは、人と違うことをしないと、生きていけないんです。
カウボーイAさんが、北に家畜を連れていくなら、カウボーイBさんは南に行かないと、家畜の食べる草がないんです。
カウボーイにとって、失敗は、ただの右折なんです。行った先に草がなければ、右にでも行ってみるんです。
342年間、アメリカ人は、常に1人で新天地を目指すことで、生き抜いてきたんですね。
人と違うことにこそ、生きる道があるという考え方は、アメリカ人の根底にあるのでしょう。
アップル、アマゾン、グーグル、ネットフリックスなど、常に新しい価値を、アメリカ人は生み出します。
そして、それらは世界を魅了するんです。
彼らは、そもそも失敗なんて概念はないんです。うまくいかないことは、成功へのプロセスの一部で、淡々と処理されていくんです。
アメリカ大陸は、見渡す限り地平線で、いくらでも広がっているんです。合わせ鏡のように、どこまでも雲が見える青い空に祝福されると、なんでもできるような気持になってくるんです。
「現代日本の国民」
日本人は、ほとんど全員が農民ではなくなり、中産階級のサラリーマン、自営業者、公務員になりました。
お米は通貨ではなくなり、封建社会は廃れ、人々は、好きなところに住み、職業を選択できます。
その結果、日本人全員が食べていけているんです。それどころか、食べきれないほど、食べ物があるんです。世界に類を見ないほど、豊かなんです。
農民の年貢にあたる税金は、個人の能力に応じて得た所得額によって、配慮されています。
もしも税金を納められなかったら、国は生活を保護してくれるんです。
つまり、わたしたちは、もう失敗しても生きてけるんですね。
そして、人と同じことをしててもいいし、違うことをしててもいいんです。
失敗すると生きていけない。
日本人の根底にあるこの考え方は、もう本当ではないです。