ソロプレイヤー

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ナデミタコは、ソロプレイヤーが大好きです。ソロプレイヤーって、100人中99人が右に行く中、1人、左に行ったり、そこから動かなかったり、上を目指して空を飛んだり、地中に掘り進んでいくような人です。

こういうアノマリーな人って、一定数必ず出現すると思うんです。そして、大抵の場合、彼らの新しい試みって、全体に対して、ほんの些細な影響も及ぼさないんですね。じゃあ、いらないかっていうと、いないといけないんです。ただいるだけで、全体にとって価値があるんです。

ナデミタコは、有機農業の修行をしているときに、師匠の友達である町会議員さんから、金言を頂いたことがあります。その議員さんは、草花が大好きで、たまに師匠の農場を訪れて、師匠と雑談したあと、あぜ道を歩き、田畑や用水路の草花を、観察していました。

5月の晴れた日、議員さんは、田で仕事をしていたナデミタコを見つけると、声をかけてくれました。

「この花を見てごらん。この花は、秋に咲く花なんだけど、狂い咲いているんだよ」

狂い咲きとは、本来咲く季節が決まっている花が、季節外れに咲くことをいいます。

「狂い咲く花は、種子を残すことはほとんどできない。なぜなら、花が咲く季節というのは、その花が、一番種子を残せるタイミングだからだ。種は、自分が一番生存できて、次の世代に繋げるタイミングで発芽する」

「じゃあ狂い咲きは、なんのためかというと、絶滅を避けるための掛け捨て保険なんだ。もし天災や異常気象で、大多数が生育中に枯れてしまったときに、その前の年に狂い咲いた花の残した、ほんの少しの種子があったおかげで、絶滅を免れるんだ。100年、1000年、1万年単位の時間で考えたときに、確率としてありえるから、毎年一定数狂い咲くんだ」

「あなたの師匠は、狂い咲きだと思っているから、わたしは応援している。この町で、有機農業をやっているのは、彼一人だけど、あきらめずやっている。君のような弟子ができるまでになった」

ナデミタコは、人を見るときに、99人の人なのか、1人の人なのか見ています。99人の人って、前例も仲間も助けもいっぱいありますから、ナデミタコができることってないんです。でも一人のソロプレイヤーって、親切にしたいんです。それは、ソロプレイヤーがどんな状態であろうが、友達として扱い、そっとしておくことです。いつ芽を出すかも含めて、前例がないからソロプレイヤーなんです。

滅びは、ソロプレイヤーの宿命です。ほとんどすべてのソロプレイヤーは、誰からも理解も称賛もされることなく、散っていきます。でも、ソロプレイヤーの中の、ほんの一握りが、99人が成す社会に、次の変革をもたらすことがあります。

宮沢賢治は、慈愛のソロプレイヤーです。花巻の大富豪の長男である彼は、99人の大富豪の跡取りにはなりませんでした。本当の豊かさと、本当の幸せとは何かを、1人探し求めます。その結果、わたしたちの手元には、彼の心象スケッチたる童話や物語があります。ナデミタコは、賢治って一人じゃないと思うんです。賢治と同じ時代に、おびただしい数のソロプレイヤーたちが、賢治と同じく、しかし異なるアプローチで、すべての生き物と物質を慈しむ道なき道を、歩み散っていったと思うんです。今日では、ほとんどの日本人は、賢治の名前を知っています。それは、すべてのソロプレイヤーの、救済を意味していている気がします。ソロプレイヤーがいてよかったんです。